こんにちは!この記事ではアイフレイル視覚転倒予防についてお伝えします。

 視覚障害の転倒リスクは、健常に比べ約2.5倍とされています。視覚機能を維持する事は転倒予防においてとても重要です。目から入る情報は、全情報の約8割です。その情報をいかに正確に捉えられるかは転倒と大きく関わっています。しかし、視力は加齢とともに徐々に低下し病的な変性なども起こりやすくなります。

目次

視力に関する3段階の変化を知ろう

図のように視覚機能の変化として大きく3つあります。ひとつずつ見ていきましょう。

(※転倒に関連して大まかに示したものであり、この順で必ずしも進むわけではないですのでその点はご注意を。)

アイフレイル

アイフレイルとは?

定義『加齢に伴って眼の脆弱性が増加することに、様々な外的・内的要因が加わることによって視機能が低下した状態。また、そのリスクが高い状態』

引用文献:辻川明孝 「アイフレイル」対策活動 日眼会誌 125巻4号 P459-462 一部抜粋

外的要因:生活習慣、喫煙、紫外線、低栄養など
内的要因:糖尿病、高血圧、高脂血症など

 アイフレイルは、主に眼疾患による視覚障害に移行する前段階です。しかし、フレイルという概念は改善の可能性も秘めています。出来るだけ移行しないように、時に感じた目の見えにくさや不快感を「年齢だから」と歳のせいにせず、自身の視機能に対する問題点の早期発見を促すために生まれた概念です。

アイフレイル対策の目標※1)

アイフレイル対策の目標
1視覚障害により日常生活が制限される人を減らすこと
2自立機能の低下により、要介護状態に至る人を減らすこと
3読書、運転、スポーツ、趣味など人生の楽しみや快適な日常生活が制限される人を減らすこと

次に、アイフレイルの自己チェックです。

アイフレイル自己チェック(10個)※1)

  • 目が疲れやすくなった
  • 夕方になると見えにくくなることがある
  • 新聞や本を長時間見ることが少なくなった
  • 食事の時にテーブルを汚すことがある
  • 眼鏡をかけてもよく見えないと感じることが多くなった
  • まぶしく感じやすい
  • まばたきしないとはっきり見えないことがある
  • まっすぐの線が波打って見えることがある
  • 階段や段差で危ないと感じることがある
  • 信号や道路標識を見逃したことがある

10個のうち2個以上当てはまった人はアイフレイルかもしれません

アイフレイル自己チェック(5個・若い人向け)※1)

  • 目が疲れやすくなった
  • 夕方になると見えにくくなることがある
  • 若い頃より見にくくなったと感じる
  • 眼鏡をかけてもよく見えないと感じることが多くなった
  • まばたきしないとはっきり見えないことがある

5個のうち1個以上当てはまった人はアイフレイルかもしれません

 当てはまった個数が多く、気になる方は早期の眼科受診が推奨されています。眼疾患は、早期の診断時には症状がない場合もあり治療や進行抑制のためにも出来るだけ早期の発見が望まれます。記事の最後に白内障・緑内障に関して『かかりやすい年齢』や『発症から視覚障害に至るまでの期間』などを示します。

理学療法士の視点

 視神経は頭の後ろの後頭下筋群とのつながりがあり、「目の疲労」は「首の後ろの筋肉の疲労」につながります。つまり首がこるという症状になりやすく、そこから頭痛や肩こり、腰痛が出現します。また、首の後ろの筋肉が固まると「顎を突き出した猫背姿勢(下図左)」になりやすいです。パソコンやスマートフォンを長時間見ていると無意識のうちにそういった姿勢をとってしまいます。対策としては、長時間の使用を避ける、目を温める、首のストレッチや背伸び、胸張りなどを適宜入れることで姿勢の悪化や肩こり・腰痛を予防できます。また、目の疲労を持続させないことはアイフレイルの予防にもつながります

加齢性の色覚変化

どんな色覚変化が起こるか?

 加齢にともない目の色覚変化が起こります。具体的には、徐々に水晶体は加齢に伴い黄みを増し高齢になると茶褐色の濁った色になります。黄色い水晶体は、波長の短い青色の光を多く吸収するため、青色の識別力が低下します。そのため、徐々に視界も黄みがかってきます。それに伴う転倒リスクにはどんな事があるでしょうか?下の写真を比べてみて下さい。

 同じ写真ですが、右側だけ黄みがかっています。加齢に伴う色覚変化によりこういった変化が生じます。

色覚変化による転倒リスクと対策

この部屋での転倒リスクをあげると、

  • 絨毯と床の境目が分かりにくいためつまづくリスク
  • テーブルなどの角が周囲と同化し分かりにくく打撲や引っ掛かりのリスク

 といった点は、すぐに考えやすいかと思います。対策としては、

  • つまづきやすい、ぶつかりやすそうな家具の配色を境目が分かりやすいものにする
  • 危険箇所に、目印をつける(テープをはる、印をつけるなど)

 自宅内での転倒は、屋外よりも多く骨折事例もたくさんあります。油断せず、自宅内にどんなリスクがあるのかを視覚の面からも考えてみましょう。

白内障・緑内障

白内障と転倒の関連は?

 白内障は、高齢者で非常に多く見かける疾患です。症状としても視力障害が出現するため転倒リスクの一要因となります。白内障と転倒は様々な研究があります。大規模な住民を対象に行った研究では、【後嚢下白内障を有する白内障患者はそうでない患者と比べ大腿骨頸部骨折リスクが約5倍であると報告】、306名の70歳以上の女性白内障患者を対象に行った研究では、【早期手術群では49%が少なくとも1回転倒し、18%が2回転倒したが、通常手術群では45%が少なくとも1回転倒し、25%が2回以上転倒し早期白内障手術群で複数回の転倒が有意に抑制されたと報告】など、手術と転倒リスク軽減に関する文献は散見されます。

 しかし、中には、白内障手術前後で比較したところ手術後の方が転倒が増えている、といった報告も散見されます。これはどういう事でしょうか?

 白内障になり、視覚障害がある状態だと外出や運動の困難さが生まれます。結果的に活動性低下につながる方も多いです。そのため、手術後に視力が回復すれば活動量は増えますが、術前の廃用症候群の影響で易転倒性が残存してしまい転倒に至ってしまう例があります。どんな状態であっても、運動習慣をつける事は重要です。

白内障の予防は可能か?

 白内障の最大の危険因子は加齢であるため、完全な予防は困難です。しかし、その他の危険因子の報告もあり、それによる予防効果はあります。因子を下の表で示します。

紫外線

 20歳代でのUV被爆が発症に関与していることが報告されています。20歳代で屋外就労により常に太陽光被爆を受けた者は、屋内就労者に比べ発症のリスクが約6倍になるとの報告もあります。サングラスは、白内障予防に重要そうですね。

喫煙

 非喫煙者に比べ約1.4倍のリスクがあります。また、1日20本未満では有意な差がないが、1日20本以上の喫煙者では非喫煙者に比べリスクが2.24~3.17倍上昇するとの報告があります。タバコは、可能な限りやめましょう。

アルコール

 具体的な量は示されていませんが、過剰摂取によりリスク上昇があるとされています。しかし、蒸留酒や赤ワインの適量摂取では逆に発症リスクが軽減されるとの報告もあります。

糖尿病

 糖尿病では、年齢・性別・罹患期間・糖尿病のコントロール状態および重症度が発症リスクに関与します。糖尿病患者の発症リスクは約5倍で、60歳以下の糖尿病患者では白内障のリスクの上昇が顕著であるとされます。

肥満

 BMIが2増加すると白内障のリスクが12%増加するとされています。一方で、BMI低値でもリスクが上昇するとの報告があり、低栄養状態が白内障の要因となっている可能性が示唆されています

副腎皮質ステロイド

 投与量と発症、点眼による眼圧の上昇には関連があるとされています。

緑内障と転倒の関連は?

 緑内障も、高齢者ではよく聞く疾患のひとつです。116人の緑内障患者を7年間経過観察した研究では、【下方視野障害と転倒の間に関連を見出し、かつ、視野障害の進行が早い群は、そうでない群と比較し転倒のリスクが2倍であると報告】、他の研究では【緑内障患者の転倒リスクは、非緑内障患者の約4倍である】といったものもあります。転倒と緑内障に関する研究は比較的多いです。ただし、視野障害の重症度と転倒の頻度や怪我の関係性は明らかになっていないものもいくつか存在します。

 別の研究では、進行した後期緑内障患者では、視野正常者に比べ約4倍転倒恐怖感を有していると報告しています。また、下方周辺視野障害を有する患者が転倒恐怖感発症のリスクが高いともしています。転倒恐怖感は、活動性低下を生じる傾向にあります。転倒恐怖心・活動性低下(廃用性変化)・視野障害が関連して転倒リスクを生み出していると考えます。

緑内障の予防は可能か?

 緑内障は進行性の疾患であり、最終的に一部の患者では視力低下から失明に至ります。原因として、加齢が一番のリスク要因であり、白内障とは異なり視野や視力障害は不可逆です。高齢になるほど、視野障害が進行した緑内障患者が増えていく事になります。手術も進行抑制までの効果であるため、早期発見が望まれます。アイフレイルなど、普段から目の状態には気を付けましょう。

白内障・緑内障の特徴まとめ

 眼疾患は基本的に、発症から視覚障害に至るまでに時間を要します。だからこそ早期発見が大事なのです。目の疲労を取るなど生活の中でも工夫が必要です。

さいごに

 目の疾患は、転倒予防の中でも比較的後回しになることが多いと感じています。しかし、かなりの情報量が入る視覚はなくてはならない存在です。人生100年時代をこの目でしっかりと見るためにも今日からできることを少しずつ行っていきましょう!

参考文献
・日本眼科学会戦略企画会議第四委員会「政策提言活動と啓発活動」
・アイフレイル啓発サイト
・結城賢弥ら 高齢者眼疾患と転倒 Jpn J Rehabil Med 2018;55;921-926
・佐々木洋 白内障の一次予防と二次予防 臨床眼科71巻第1号2017年1月P52-60

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Taisuke

転倒予防に関して様々なお役立ち情報を投稿します。 【About me】 理学療法士10年目・認定理学療法士(介護予防)・国際情報の配信事業部会員(理学療法士協会)・地域での講演や健康チェックなど予防活動が専門です。

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