健康や予防の情報を広めていくためには、1対1での関わりだけでなく、広く・多数の人に伝えなければなりません。介護予防や認知症予防、転倒予防が社会的に注目され、専門職にとっては、こういった多人数へ伝えるスキルは間違いなく必須になっていきま

医療専門職が意外と不得意なこと

「今度○○月にある○○健康教室での発表お願いね。」
 ある日、突然の指名。

 理学療法士をはじめとする医療専門職は、基本的に1対1での関わりが主となっています。なので、転倒予防教室などの健康教室のように多人数を前にして話しができないという人も多いと思います。わたしは、これまでに転倒予防教室(40-60名)、地域サロン(10-20名)、高校授業(20名)、市の健康予防事業(600名)、パーキンソン病教室(300名)など、様々な規模で講演をしたことがあります。特に転倒予防教室では、毎月講演が待っているため発表や運営方法を模索しました。その中で、失敗や成功などありますが、経験としてお伝えできることをまとめました。

多人数に向けての話し方・指導方法は臨床とは違います。
9つのメッセージを読んだ後は、不安が少しやわらぎ講演スキルもアップしていると思います。

9つのメッセージ

1.目の前の人はどんな人か?

目の前の人はどんな人か

 最初にお伝えするのは、どんな人に話しをするのか?という事です。これは資料を作る最初の段階からちゃんと意識していないといけません。高齢者でしょ?地域の人でしょ?そのような”どんな”ではありません。わたしは理学療法士です。そして、基本的に医療専門職が普段相手にしている人は、【疾患をすでに持っている人】がほとんどです。その方たちを対象に、説明・評価・治療をしています。特に病院で勤務している場合、無意識下で『自分が説明=相手は疾患あり』となってしまう傾向にあります。
 では、地域の健康教室に来る人はどのような人か?例えば、『膝関節痛と運動』のようなタイトルの場合、

  • 疾患を持っていない人(膝が痛くないけど興味がある人)
  • 疾患を持っているかもしれない人(膝が痛いけど疾患はない人)
  • 疾患を持っている人(すでに変形性膝関節症などの診断をされている人)

 この3パターンの人が混在しています。(多人数の場合はどの人がどんな状態かわかりません)
 まずはこういう状況が混在しているであろう集団を相手にしているんだと言う事を意識してみてください。それだけで全く違います。わたしの周りでも理学療法士がスライドを作ると疾患ありきの内容に偏ることが多くあります。それでは、疾患を持っていない人達には響きません。それに疾患を持っている人は地域では少数派です。考え方としては、

  • 疾患を持っていない人➡予防方法+セルフチェック(運動機能の自己評価方法など)
  • 疾患を持っているかもしれない人➡予防方法+治療方法(運動療法や生活でのポイント)+セルフチェック(病院受診の目安など)
  • 疾患を持っている人➡治療方法(手術方法の紹介など)+再発予防や重症化予防+セルフチェック(痛みのコントロールの仕方など)

 上記のように、疾患や症状の有無によって聞き手の関心事が微妙に異なっています。そのため、偏った説明は利益を受ける人も偏ると言う事です。そのため、時間がゆるす範囲で、まんべんなくどの状態の人にも当てはまる内容を考えることが重要です。

2.話をする時は原稿を見ても良い

話しをする時は原稿を見ても良い

 次は、講演中の意識の話です。
 よく、「原稿を読むよりも、なしで話をする方が良い」という事を聞きます。しかし、どういった形で話すかよりも、話す側の人がどんな意識で話しているかが重要です。ニュース番組のアナウンサー』と『地域の健康教室での講師』この2つはどちらも数は違えど1人で多くの人に伝えています。では、根本的に何が違うと思いますか?一番違うのは、目の前に伝えたい人がいるかどうか。それにより何が違うか?これは話し手の意識に大きな違いを生みます。それは、

『ニュース番組のアナウンサー』➡1対多数
『地域の健康教室での講演』➡1対1 × 多数

 だからです。何度も言いますが話し手がこの意識を持っているかどうかの違いはとても大きいです。これを聞き手が感じるのは『自分が参加していると感じることが出来るか』という大きなポイントがあります。例えば、講習会に参加して、同じ講習内容でも「原稿を読んではいないけど淡々と前を向いて話している講師(まるでニュースキャスター)」「原稿を読んではいるけど時に参加者それぞれと目を合わせたり、質問して手を挙げさせたり、話しかけたりしている講師」どちらの講師の話を聞きたいですか?話す側からするとたくさんの人という一つの塊ですが、聞く側からすると相手は1人です。この1対1×多数という意識。とても大事です。

3.お笑いではない面白さは誰でもできる

お笑いではない面白さは誰にでもできる

 次は、内容に『面白さ』を取り入れようです。講演はどんなに内容が良くても、リズムが単調で真面目なものばかりでは眠くなり、窮屈に感じる人もいるかもしれません。そこで『面白さ』をプラスすることで、印象が良く次回も聞いてみたいなと思わせる事もできます。でも、自分はお笑い向きではないし、笑わせられない。そんな人も多いと思います。わたしもお笑い向きではありません。

 ここでいう『面白さ』とは【意外性】です。思っていた事と違う事があった!(面白い)と思わせることです。例えば、「身体のことについて当たり前の方法が実は違った(認知症には脳トレより運動の方が効果的!)といった情報」や、「実際にその場で体操など行い自分で思っていた自分の能力との矛盾や意外と出来ない課題に取り組んでもらう」などです。その中でも特に二重課題は『面白さ』を引き出しやすい一番のオススメツールです。例えば、「計算問題をしながら拍手をリズムよく続ける」「右手と左手で違うことを同時にする」「足と手で同時に違うリズムで動かす」などバリエーションは豊富にあります。ネット検索だけでもたくさんの運動が紹介されていますので、ぜひやってみてください。ポイントはひとつの課題は簡単なのに組み合わせるとできないという難易度がちょうど良いです

4.多人数に運動を指導する時のポイント

多人数に運動をする時のポイント

 次は、集団への運動指導についてです。これには3つのコツがあります。
多くの医療専門職は、臨床場面で1対1での指導が主です。その際は、対象者の理解や身体の状態に合わせて指導を行うことができます。しかし、集団への運動指導では、対象者の状態がそれぞれ異なるため細かく説明することが困難な場面が多いと思います。その際に気をつけることが3つあります。

 1つ目は、単純な運動であること。聞く側の人は1対1ではないため質問をしにくい事が多く、そのためいかに単純なものであるかが求められます。そして、運動の目的を明確に示すことです。「転倒予防」なのか「認知症予防」なのか「膝痛予防」なのかをです。

 2つ目は、負荷の方法です。よくあるのは20回や30回行いましょう!と回数での指導です。しかし、回数は人によって最適な回数が分かりにくく指導しにくいです。そして回数を増やすと比例して面倒くささも増える事は最大のデメリットです。そこで、回数を固定し「秒数」で負荷をコントロールする方をオススメします。例えば、スクワットでは、回数を10回と設定します。そして、5秒かけて膝を曲げ5秒かけて膝を伸ばして下さいといった指導をします。10回終了時に太ももの張りが辛い人は負荷が強いため3秒で行う。問題なくできる人は6秒7秒と徐々にゆっくりにしてもらう、という指導方法です。回数が10回という固定の方が面倒くさい感じが出にくく、秒数を増やせるとパワーアップしている実感があることがメリットです。

 3つ目は、今お伝えした「実感」があることです。やっててキツイ、でもやってたら楽になってきた(=力ついたのかな)という実感です。予防介入としての運動は、この実感をいかに感じてもらうかが重要です。

以上、集団に運動指導する時は3つのポイントを意識してやってみてください。

5.自分で己を知る

自分で己を知る

 健康を保つために運動機能を自己管理できることはとても重要です。それには自分自身がどれだけ出来るかの自己評価を定期的にしないといけません。では、多人数に伝えながら同時に評価する、自己にて評価をやってもらう場合はどうすれば良いでしょうか?エビデンスとして多人数向けの評価が確立されているわけではありません。しかし何を用いるか選択する上でのポイントはあります。普段の臨床では、治療に結びつけるための評価を目的として実施していると思います。講演などで多人数·地域住民を評価する場合は少し考える視点が増えます。それは、
「①自分の能力を自分で把握するためのものを選ぶ」
「②リスクが少ないこと」

 というポイントを踏まえる必要があります。なぜかというと医療専門職がいつも近くにいるわけではないため、基本的には全て自己管理しないといけないからです。そして自分の能力把握のために自宅でも実施して頂くようにするからです。
 ①に関しては、例えば下肢筋力を評価したればCS-30といった立ち上がり・着座を繰り返すような簡単な評価動作を選択します。実施する際に細かい説明が必要なものは望ましくありません。さらに年齢別のカットオフがあるような評価がより望ましく普段の記録や一般的な記録と比較できるからです。また、自宅でも出来るように特別な物品を使用しないものが良いです。
 ②に関しては、評価を自宅で実施する際に転倒リスクなどが考えられるものは可能な限り避けるというものです。例えば、片脚立位やロコモにおける片脚の立ち上がりテストなどは転倒リスクが高く自宅での実施にはオススメしません。理学療法士のリスク管理として評価、自主トレーニングの選択能力が求められます。健康リテラシーを上げるためには、それぞれの人が自分の事、自分の運動能力を把握する必要があります。

6.結果にコミットするのは誰か?

結果にコミットするのは誰か?

 医療専門職が健康について話をするときによくあるのが、自分の言いたいことを中心にならべているような構成になっていることです。しかし、ポイントは「結局誰が結果にコミットするべきか?」です。

 健康というものがゴールであれば、その結果にコミットするのは話している専門職の人ではなく聞いている本人です。結局どんな話を聞いても自分でやろうとならなければ意味はないです。何もせずに楽して痩せたいと思っても大半の人はやっぱり何かしないと痩せないですよね。RIZAPも管理はしてくれも結局自分でしないと変われません。健康についての講演会などで話をするときはそのポイントがズレてしまうと話す側のエゴにしかならない可能性があります。
 例えば、膝の痛みについて話す際に、膝の痛みが出る理由はこういう病気があります、膝のこの部分が痛くなります、もし痛くなったらこういう手術があります。ってな感じだったら、ちょっとした知識はついても自分で膝をマネジメントする力としてコミットすることはできません。予防的な観点で言うと足りないです。まず自分の状態を知るためにはどうしたらいいか日々誰でもできる方法で痛みを出にくくする工夫は何ができるかどんな痛みであれば病院にいくべきなのか。などといった視点のものを取り入れる必要があります。膝の手術なんて早々身近に感じれるものではないので、色々な手術があるんだ~、へぇー。くらいに思ってもらう程度で良いと思います。最終的に誰に動いてもらうのか、動いてもらうための情報提供は何が必要かの視点を忘れないことが大事なことだと思います。

 【1.目の前の人はどんな人か】では、様々な状況の人がいるのでそれに合わせての内容が必要との話しでしたが、今回知ってもらいたいのはさらに一歩進んだ【結果にコミットするのは誰か?】という意識です。講演する時も、それをしっかりと伝えることが重要です。

コミットには、「責任を伴った約束をすること」「目的に対し積極的に関わること」といった意味があります。

7.専門職の特権

専門職の特権

伝える物の価値×伝える人の価値
医療専門職は、講演する事に向いています。その理由を書きます。

 人からオススメされる時、物自体に価値があるのはもちろん大事なことですが、誰から伝えてもらうのかという事も大事です。例えば、野球のグローブが欲しいと思ったとき、近くの野球少年がオススメしてくれたグローブとイチローにオススメされたグローブ。2人からオススメされたのは全く同じグローブでした。どちらの意見がより信頼できますか?欲しくなりますか?きっとイチローですよね。同じものなのに感じ方が違いますね。物の価値より誰が伝えたかに価値が移行しています。

 自分が欲しいと思う物・してみたい事・知りたい事、それは自分より使いこなして慣れてる人、特に専門家に聞いてみたいものです。当たり前ですが、この視点は意外と盲点です。では、医療専門職が地域で健康についての情報や運動をオススメする時はどうでしょうか?一般の人に比べて医療専門職は、若手でもベテランでも肩書きの有無に限らずみんな専門職なので、比較的『伝える人の価値』としてはそもそも高いと思います。

 私の感覚としては、専門職の中の誰が伝えてもあまり大差はないと思っています。理由は地域の人が医療専門職の人々に対してあまり優劣をつけていないからです。野球選手なら若手よりイチローの方が良いです、二軍より一軍、テレビでよく見る人の方が良い。など。しかし、一部の超有名人などを除き基本的には医療専門職は、何年目の方が絶対良いという観点はないです。これは良くも悪くもあります。良い意味では若手でも医療専門職の肩書きがあればどんどん講演ができる可能性があります。悪い意味では何年たっても『この人に教えてもらいたい』になりにくい可能性があることです。しかし、専門職である以上たくさんの人に向けて講演しない手はありません。機会を探してどんどん発信しましょう!

8.ニーズを大切にしよう

ニーズを大切にしよう

 聞いている人のニーズを知る。これはかなり大切なことです。人それぞれ個人のニーズは違いますが、集団として大まかな傾向を知るのは大事です。単発の講演では難しい場合もありますが、聞く方法で一番ベタなのは紙などでアンケートをとることです。地域に講演や健康チェックなどに行った際に聞くのが一番良いです。

 聞く内容は主に大きく2つです。「①どんな内容を聞いてみたいか」「②どんな講演形式が良いか(好きか)」①に関しては、「関節の痛み」や「転倒予防」や「認知症予防」など講演で聞いてみたい内容を聞いていきます。他の健康教室とのかぶりやトピックスなどが異なる場合があります。一方的にならず少しでも地域の声がフィードバック出来る形を考えましょう。②に関しては、「座学形式」「体操形式」「座学&体操」「グループワーク形式」など、講演のやり方の希望を聞いてみることです。身体を動かしたい集団に座学だけで終わってしまうと内容が良くても不完全燃焼になってしまう場合もあります。体操でも筋トレがメインが盛り上がるところもあれば、コグニサイズのようなゲーム性を好むものもあります。
 集団は生き物です。多人数とはいえコミュニケーションが大事です。講演している中で盛り上がらなかったり、つまらなそうな表情が多く見える場合は思い切って途中で切り上げ、紹介のみにすることや声かけを工夫するなど、臨機応変にした方が良い場合もあります。

 難しそうですか?大丈夫です。何回かするとなんとなく分かります。しかし、そのためには集団の顔をしっかり見ることをクセづける必要はあります。原稿をしっかり作れば作るほど読んでしまったり、途中のイレギュラーに対応しにくいものです。講演前は読む練習ではなく、実際の参加者の顔を想像しながら話す練習をすることがスキルアップに必要な準備です。

 緊張して真っ白になりそうですか?大丈夫です。相手も人間です、思ってる以上に色々助けてくれます。それは実際に話しをすれば感じることがあるはずです。

9.専門職としてもうすでに必要

専門職としてもう必要

「これからの医療専門職として考える事」
 医療専門職の働き方は病院や施設での1対1での治療や対応が多くを占めています。それは基本となるもので疾患の知識やリスク管理、評価、治療方法の選択など幅広い知識を使います。しかし、これからはその知識をもっと世の中に伝えていくべきだと思います。医療専門職のプロフェッショナルは知識や技術もさることながら、その複雑な身体状況をより分かりやすく情報として提供することだと思います。いかに難しい専門的な知識を簡単に説明し健康リテラシーをあげることができるかです。また、専門職の中でも理学療法士などのコメディカルは年々増加傾向にありますが、日本においての知名度はまだまだだと思います。自分達に何ができるのか?どんな事を提供できるのか?を知ってもらうことは、職種としての職域の広がりや処遇改善、職能団体としての拡大などいろいろとメリットは多いと思います。コロナ禍でも必要とされる職業としてもっと出来ることがあると思います。

まとめ

 多人数へ伝えるスキルについて9つのメッセージを書きました。普段の1対1の個別対応とは異なる、集団に対してのスキルです。少しでも参考になれば幸いです。

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Taisuke

転倒予防に関して様々なお役立ち情報を投稿します。 【About me】 理学療法士10年目・認定理学療法士(介護予防)・国際情報の配信事業部会員(理学療法士協会)・地域での講演や健康チェックなど予防活動が専門です。

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