歩行速度は遅くなくても、見た目でフラツキがなくても転倒してしまう人に遭遇することがあります。そんな人は、二重課題が苦手かもしれません。今回は、二重課題に注目し日常生活で出来ることをお伝えします。
この記事で分かること
- 日常生活で転倒と関連した二重課題
- 二重課題と転倒予防の関係
- 日常生活の中で出来るトレーニング
目次
二重課題とは?
2つの課題を同時に行うことです。また多重課題(Dual task)は、複数の課題を同時に行うことです。2つ以上の課題とは、例えば「話を聞きながらメモをとる」、これは人の話を聞いて文章を理解しながらメモを書くために手を動かしている点で2つの事を同時にしています。こういった見る、聞く、話す、動くなどを同時に行うことです。
日常的な歩行の二重課題
日常生活の中でも二重課題を行う場面はたくさんあります。いくつ思い浮かぶでしょうか?
1. 散歩しながら会話をする
意外かもしれませんが、これも二重課題です。話しながら会話をするこれも立派な二重課題。実際に、会話をしながら歩けない人(話しかけるとその都度止まって話をする人)は、半年以内の転倒率が高いとも言われています。
2. 掃除機をかける
歩きながら道具を使うという事です。ほうきやモップも同様です。歩行スピードに合わせて上肢を使う作業は、速度に合わせて上肢をコントロールする・汚れている位置を見定めてそこに合わせるといった課題が合わさっています。
3. 人ごみを避けながら歩く
人の多いところを歩く時は、相手の動きを見て判断し自分の歩く方向やスピードを決めるという二重課題・多重課題が含まれています。例えば、人を追い越す時は相手の速さを判断し、それ以上の速さで方向を変え道筋を決めて実行します。
4. 不意に呼びかけられた時
歩いていて不意に呼びかけられ声の方に反応することも二重課題の一種です。正面ではない方に視線を移すことで外からの刺激となり転倒リスクになる可能性があります。
二重課題と転倒予防の関係
山田に※1)よると、Timed up and go testが8.3秒以内でも、ボールをお盆に乗せて運ぶ二重課題下で10%以上速度遅延があると転倒リスクが高い。と報告しています。そのため、転倒予防のためには歩行速度や筋力に関わらず二重課題単独の因子としてもある程度評価が必要です。
また、認知機能低下に伴い情報処理能力が低下してくるため二重課題になるとエラーが出やすくなります。実際にMCIの人は歩行速度が遅くなります。これは、速度が速いほど周囲の情報量が増えるため処理する能力が必要になりますが、MCIの人はそれを補うために歩行速度が徐々に遅くなります。認知症予防は、転倒予防とも大きくつながりがあります。
日常生活で出来るトレーニング
日常生活の中で出来ることは、あえて二重課題をつくり+αのトレーニングとします。 木村ら※2)によると二重課題トレーニングは、同様の感覚モダリティ(聴覚や視覚などの入力される刺激の事)の場合において転倒予防効果が有効との可能性を示している。そのため今回は、誰にでもできる歩行と+αの課題でのトレーニングをお伝えします。
1. ウォーキング+頭の体操
ウォーキングする時に、ただ歩くのではなく、『100から7ずつ引き算する』『野菜の名前を知っている限り言う』など、頭の体操をしながら歩くというものです。これも立派な二重課題。やりながら足が止まらないように注意しましょう。また、頭の体操に集中しすぎて転倒や衝突に注意しましょう。
2. 歯磨き+踵上げ運動
日常的にできる簡単な二重課題トレーニングです。歯磨きをしながら、踵上げをする。どちらの動作も止まらないように気を付けましょう。磨き残しのないように。
3. 歩行+探索課題
例えば、お手玉などを部屋やもしくは、施設・病院であれば訓練スペースに隠します。それを探します。これは、注意機能・記憶力などの高次脳機能も使いながら、かつ転倒しないように歩行するため比較的二重課題の中でもレベルが高いかもしれません。実践動作とも結びつきやすいです。方法として、①自分で隠して時間を置いて思い出しながら実施する、②他者が隠し探索をメインに実施する。があります。時間制限を設けるとより難易度が上がります。
4. 歩行+号令による方向転換
これに関しては、日常生活よりは主に訓練で実施します。ある程度歩行が安定しており自立歩行ができる方が対象です。歩行をしている途中に、ホイッスルまたは、かけ声、手拍子などの合図を出します。対象者はその合図が聞こえたら方向転換を行います。これは不意に声をかけられたり、人が急に出てきたりなど咄嗟の出来事へ対応するための練習です。周囲の状況や実施中の転倒には注意が必要です。
まとめ
二重課題を安全にこなせるという事は、日常生活の中での転倒予防に非常に重要です。どのような場面が想定されてリスクとなるのかを把握するとともに、合わせて可能なトレーニングも導入していきましょう。
参考文献
※1:山田実 高齢者のテーラーメイド型転倒予防 運動疫学研究 2012;14(2);125-134
※2:木村ら 二重課題干渉に着目した転倒予への取り組み 33(6):1013-1018,2018