「転倒予防の講演ってどこも同じような感じの内容だよね。」と思われる方がいると思います。専門職が行う地域向けの講演って、何か似たような感じや内容になることが多い気がしています。これは、転倒予防に限らないです。その他の分野でも勉強会などでもそうです。そこで、少しでもオリジナルを出しつつ伝わりやすいためには!をテーマに3つの話す方法をお伝えします。今回は転倒予防を地域に伝えるということを中心にお伝えします。

講演を意味する挿絵

1. 体験を話す

 理学療法士や専門職が地域に向けて話す転倒予防の内容は、環境やトレーニングなど様々な因子ごとの解説はあるものの割と似たような感じになることが多い気がしています。よっぽどシリーズ化して内容を細分化している場合は別ですが、特に一度きりの場合は似たような内容になりがちです。

 そこで、ポイントは【体験を話す】という事です。例えば、転倒予防の環境について話す場合です。一般的な(私が思う)講演のパターンと体験を話す、で比較してみましょう。

一般的な講演パターン

 転倒予防は、内的因子(筋力の低下や認知症など)と外的因子(周囲の環境など)の2つに大きく分かれます。今回は、そのうち外的因子の環境(トイレ・お風呂場)についてお話します。これらの転倒予防の環境のポイントは、
・椅子(便座も)からの立ち上がり
・対象者に合った手すりかどうか

です。問題としてよく起こりやすいのが筋力低下です。特に足に筋力低下がある場合は、環境自体に見直しが必要な場合も多いです。多くは、フラツキや立ち上がりがしにくくなります。座位の安定には横の手すり、立ち上がりには、縦の手すりと便座の高さを見るのは必須項目です。下図のように検討箇所はいくつかありますが、実際に行いながら確認するのが望ましいです。必要あれば福祉用具の検討も良いと思います。

トイレ解説模擬図

 かなり手短かに書きましたが、『転倒しやすい環境の紹介』『説明のあるイラスト』『工夫の説明』の流れがよくあるパターンだと思います。もちろんそれで良いと思いますし、私もそういった内容を取り扱うこともありますが、何となくオリジナル感に欠ける気がしています。これなら話している人は、誰でも良い気がします。でも、専門職はそれぞれ違った視点がありますし、違った考え方を持っています。今話している人だからこそ伝えられる事を伝えないともったいないです。そのオリジナル感を出す一つの方法に【体験を話す】が使えます。

体験を話すパターン

 私は、理学療法士として転倒予防に関わる事が多いです。この前も転倒予防について考える機会がありました。それを踏まえてお伝えしようと思います。
 私が担当したある患者さんの話しですが、退院後歩くことに不安を感じていました。特に生活で必要なトイレとお風呂に不安がある様子でした。私は実際に、退院する前に家屋訪問を行い生活の場を見てきました。皆さんも下図を見ながら自宅の事を考えてみてください。まずトイレです、左側に手すりが一本あったのですが、時々座っている時にもフラツキがある方でした。そういった方には横にも手すりがある方が良いため座っている時・立つ時に便利なL字手すりを提案しました。また、便座も高い方が立ち上がりやすいため、補高できるものを紹介しました。次にお風呂ですが、今度は立ち上がる時に不安定さを解消するために縦手すりを提案しました。さらに普通のお風呂の椅子は低く立ちにくいためより安定する肘置き付きの椅子を提案しました。最後に洗い場での転倒を気にされていた本人さんにすのこの設置も提案しました。
 みなさんの自宅ではどうですか?ポイントは、椅子(便座も)から立ち上がりやすいか?手すりの位置が適切か?です。

トイレ解説模擬図

 一般的な説明と言いたいことは一緒です。今回はトイレ・お風呂の一例ですが、この【体験で話す】ということでひとつ大きなメリットが生まれます。今のように説明することで、【自分事として考えやすい】という事です。一般的な講演は、基本的にいわゆる一般論。自分が関係ありそうなところは聞いているがその他は頭に残りにくいと思います。特に、話すなかでこの一言を入れました。『下図を見ながら自宅の事を考えてみてください』これで自分事として考えやすくなります。そして、話し手の体験の中の患者さんと重ねて考えることができ、それぞれのトイレとお風呂を想像すると思います。良くても悪くても。これがポイントです。特に転倒予防は正解がないため常に本人が考えることが必要です。一般的な説明では、導きにくい自分事として考える事。【体験を話す】ことで、これらのメリットがあります。

 そんな説明の仕方する人いるの?なんとなくしにくいなぁ。と思われる人もいるかと思います。誰もしないからこそオリジナリティが出ます。短い体験からでも良いので、内容と絡めて自分の体験を話してみてください。

2.独自の視点で話をする

 例えば、【転倒予防には筋力トレーニングが良いのでしましょう。】という事を伝えたい時の話し方の工夫です。

一般的な講演パターン

 転倒予防には、筋力トレーニングが効果的です。実際に、足の筋力低下は転倒に関係しているものの一つです。特に、おしりの筋肉や太ももの筋肉は落ちやすいため継続的なトレーニングが必要です。効果的な運動のためには、1日30回を2セット行うのが良いとされています。注意点としては、関節が痛い場合や体調が優れない場合は様子を見ながら無理をしないこと。また、水分摂取も合わせて行いましょう。週に2-3回からでも十分なので少しずつ始めてみてくださいね。

 だいたいこんな感じではないでしょうか?普通ですよね。普通だとオリジナリティがないんです。では、少し視点を変えて話してみましょう。

視点を変えてパターン

 転倒予防には、筋力トレーニングが効果的です。実際に、足の筋力低下は転倒に大きく関連しています。ところで、みなさん運動するならどの時間帯が良いですか?聞くところによると、朝に運動しています。とか、夕方に散歩しています。などそれぞれです。この運動しやすい時間帯というのはみなさん違うと思います。しかし、時間帯によって効果には差がありません。むしろ週に何回しているかの方が重要です。では、毎日やらないと効果が出ないと思いますか?そんなことはありません。週に2-3回で良いのです。みなさんの行いやすい時間帯で週に2-3回してもらえれば十分です。

 何が違うか?それは、話している内容もそうなのですが、聞いている人の考えるポイントです。一般的な講演パターンでは、話の中心が筋力トレーニングなので最終的に聞いている人は『どの筋力トレーニングをするか』という思考になります。なので、その場合出来そうにない運動と感じられたりめんどくさいと思われると「しない」という選択肢が生まれます。次に、視点を変えてパターンでは、話の中心が運動をどのくらい、いつするかという事です。この場合、聞いている人は『どのくらいなら出来るかな』という思考になります。つまり、運動をするという事が前提になります。そうなるとめんどくさい場合でも「しない」という選択肢よりも、週に一回くらいにするなど妥協点が変わってくることが多いです。

 もう一つメリットがあります。転倒予防をする時に、トレーニングや体操など実践していくのは、苦手な人には面倒くさいものです。そのため、伝える時にやってほしい事を直接「やってください」と印象付けるのは、本当にやりたい人を除いて面倒くささ以外の何物でもありません。視点を変えて説明したようにすれば、多少は運動に対しての面倒くささは減ります。最初に伝えた時の印象は結構大事だと思うので、ぜひ視点の変換を考えてみて下さい。

対比のイラスト

3. 独自のネーミングを作って話す

 最後の3つ目は、ネーミングを考えようという事です。オリジナルの言葉や造語を作れば聞き手側としては、それだけでも少し新しいことを学んだという気持ちになります。どのように独自のネーミングを作れば良いかの例をお伝えします。

①文字を組み合わせる

 普段の会話や文章などでよく使う言葉や単語の中で、相いれないもの同士をあえてくっつけると面白くなることがあります。例えば、

転倒予防デザインす
ポケット知識を。

 『転倒』と『デザイン』、『ポケット』と『知識』、お互い普段の会話では相入れないものです。しかし、くっつけてコンセプトなどにすれば意外と良い感じです。(ちなみに『転倒予防をデザインする』は、知識・資料の工夫・話し方の工夫で自分流の転倒予防をデザインし発信する。という感じです。)

 最初は、普段はくっつかない『固有名詞』と『動詞』をくっつけて言葉を作ってみましょう。例えば、『関節で食べる(食事動作にはしっかりと関節の動きが必要)』『歩く呼吸(歩きのスピードに合わせて呼吸の早さも変わっていく)』『脳が透けて見える(脳の部位を良く把握すること)』など、何となく面白い言葉で意外とイメージもしやすく、かつありきたりではありません。出来たらこれらの言葉を話しの中に盛り込んで使ってみてください。多くの場合、スライドや資料を使いながらだと思うので、文字としても載せているとより良いです。

②頭文字を並べる

 3つのポイントを紹介する時に、先頭の文字を並べる方法です。例えば、転倒予防に重要なのは3つのポイント【KNK】です!『筋力』『認知』『環境』!(ちょっと例えがダサいですね。)ローマ字にして頭文字をとる・英語に訳して頭文字をとる・ひらがなで頭文字をとるなど、つなげた時に意味のある言葉になればラッキーです。それは、聞いている側にとって知識を得とくするためのオリジナルノウハウになります。

③言い換える

 言い換えるをすることで似たような内容のイメージから脱却できることもあります。例えば、

【転倒予防の方法】を言い換えると、【立ち上がり続ける方法】【重力に負けない過ごし方】【骨に生涯の幸せを掴ませる方法】など、サブタイトルにも良いかもしれません。

 専門用語は、一般の人には分かるような分からないような言葉が多くあります。そもそも転倒予防もしっかりとしたイメージが付けられる単語ではありません。人によって想像するものが違うからです。言い換えることは、分かりやすくするという事でもあります。

 少し特殊な感じのする『独自のネーミングを作って話す』という事。しかし、よくお笑い芸人が人気になる理由に、漫才やコントのネタが面白いほかに独特のワードセンスが目立つという事もあると思います。それと同じく、内容はありきたりでもワードセンスを磨けば、あの人の話は面白い!となるはずです。ぜひ試してみて下さい。

さいごに

 今回は、オリジナルの内容に思ってもらえるための話し方の工夫を紹介しました。専門職は、1対1の場だけではなく多人数に伝えられる能力は必ず必須となっていきます。高齢化が進み予防活動はどんどん広がるので専門職として、いつ自分に話す場が来るか分かりません。その時に、誰がやっても同じだね。と思われないよう、少しずつ視点を広げこういった事も考えてみましょう。